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80回目を迎えたホームレス医療支援

わたしたちを待っている人が居る~80回目を迎えたホームレス医療支援~

福岡市博多区の冷泉公園で、2009年2月から毎月第1金曜日に取り組まれる「ホームレス医療支援」。厳寒期も熱帯夜も、雨の日も欠かすことなく開催され続けたこの医療支援が、2015年9月4日(金)の開催で80回目を迎えました。

福岡医療団の職員や医学生、看護学生、社会学系学部の学生、ボランティアが参加して開催されるこの取り組みは、約6年半の月日を重ねました。初参加のときは学生だった参加者が福岡医療団に就職後も参加したり、会議や用事が重ならない限り「毎月第1曜日のこの日は医療支援の日」と位置づけてほぼ毎回参加していたり、とそれぞれの「思い」がこの医療支援を支えています。

参加者からは「今後も出来る限り、この医療支援に参加していきたい」、「8月後半くらいから朝夕少しずつ寒くなってきた。体調を崩す人も増えるのではないか」といった感想が出されました。

暑い夜も雨の日も支援を重ねて80回~参加者にインタビュー~

何かやらねばという強い思いで始めた医療支援。最初は発電機やら暖房やらを用意して大仕事でした。福岡市の取り組みで路上からの自立支援が進み、(医療支援の)テントに訪れる方はだいぶ減りました。現在は継続が何よりと無理しないように活動しています。人生の先輩から学ぶことは多く示唆に富みます。公園でスタッフや学生さんとホームレスの方が気軽に話している姿をみると頼もしく感じます。皆さんのおかげで活動を継続出来ており有り難く思っています。興味がある方募集中です。一回だけでもOKです。気軽にお立ち寄りください。(千鳥橋病院 総合内科 医師 有馬泰治)031)150905医療支援 (3)

福岡医療団入職の翌日、2010年4月から医療支援に参加しています。医療支援を受けに来た方で希望される方の血圧や血糖を測定します。生活保護を受けている人達は、とかく「生保の人は!」という目で見られがちですが「仕事をしたくても出来ない」人達も居るんだ、ということをわかって欲しいと思います。(千鳥橋病院 看護師 女性)

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高校時代、ホームレス医療支援をされている牧師の話を聞き、支援の炊き出しに参加するようになりました。大学ではホームレスを生み出す背景を知ろうと、生活保護や貧困など積極的に学びました。そんなとき写真部で写真が好きだった私は写真撮影のツアーで福岡医療団の職員さんと出会い、医療支援のことを知り、これまでとは全く別の場で参加するようになりました。普段ではみることのない社会の現実を目の当たりにさせられることはもちろんですが、「当事者の立場から物事を考え行動することは決して容易ではない」ということを思い知らされました。しかし、この活動をとおして有馬先生をはじめ、利益追求だけでなく支えようと活動している方々が多くいることも知りました。私も野宿を強いられている方々や患者さんの立場に立ち、民医連の一員として考え行動できる、愛のある医療人になりたいと思います。(千鳥橋病院附属診療所 事務 女性)

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これまで何回も「医療支援に参加します」といいながら叶わず、不参加が続きました。先月と今月、やっとこの医療支援に参加することができました。医療支援を受けに来た方からの相談や話を聞いていると生活保護のあり方やホームレスの方の生活習慣、「働きたくても働けない」という彼らの状況がより詳しくわかってきました。この現状を多くの人に是非知ってもらいたいと思っています。(千鳥橋病院 事務 男性)

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☆天神夜回り奮闘記☆

2015年のある日 天神某所に私たちは集まった。

これから天神周辺のホームレスに声かけしにいくのだ。発端は学生からの「実は天神に遊びに行く時にいつもみかけるホームレスがいる。毎回いるからすごく気になる」の発言だった。19:50~20:15くらいにかけて、パルコ前から天神コア周辺、大丸前から七隈線地下鉄入り口など、以前みかけた場所や寝泊まりしていそうな路地などを探し回った。

なかなかみあたらず、地下街も1周してみる。それでもみあたらない。果たしてどこにいるのか?店が閉まるまで別のところにいるのか?探す場所が間違っているのか?あきらめかけて、警固公園側へ向かってみた。トイレ周りや駐輪場出入り口周辺にはいない。タバコを吸うスーツ姿のサラリーマンや若者がこちらをみる。

ふと学生一人が「えっ?あの方そうじゃない?」。公園中心付近に遠目には物が置いてあるようにみえる微動だにしない方が寝ていた。

身なりはそこはかとなく汚れ、髪の毛・ひげ・爪などは伸び放題。周りではカップルやほろ酔いの若者集団など楽しげな声が聞こえてくるが、その方のまわりだけ別空間のようだ。当然誰も気に留めず、声をかける者などいない。学生達の期待のまなざしに背中を押され、声をかけてみる。

Yomawari

「こんばんは、千鳥橋病院の者ですが、寒くないですか?ホッカイロは要りませんか・・・?」。見た目や臭いは強烈だが、肌の色や目などをみると若い感じもする。

ぶつぶつと独語のようにしゃべり出した「これいいの?わざわざありがとうございます。」どうしてここで寝泊まりしているのか、路上生活は長いのか、食事はちゃんととれているのか等、色々と質問してみたが、ゴニョゴニョと何を言っているのか聞き取れず、断片的な情報からしかその方の素性は判断できなかった。

「昔、肋骨折れたときも治療してもらいました。あとは寝ていて大丈夫だった。からだはこのとおり大丈夫。」その方の発言の中で、話しを中断させる発言、断る発言はよく聞き取れた。

これまでも色々な人に声をかけられ丁寧に断る術、話しを終わらせる術を身につけたのだろう。食事もコンビニなどで捨てられる未開封の弁当を拾って食べている。ゴミもちゃんと捨てに行くこと。過去に市内で建築労働に従事していた事などを教えてくれた。20分ほど話し込み、また来月来ることを伝え次へ向かった。

2人目は西鉄天神駅から地下街へ降りる階段途中にいた。電車に乗る人や会社帰りの人々がごったがえす中、みんなその方のまわりだけ避けて通っているようだ。

階段に足を踏み入れた人々はその異様な姿に一瞬驚き、気にせず避けていく。

ここで学生に「どう声をかけてみる?」と聞いてみたが、まだ怖いようだ。私がいくしかない。

「こんばんは。お休み中のところごめんなさい。ここで寝ていて寒くありませんか?」。

近づいてみるとさらに臭いが増した。髪の毛も膝下以上に伸びており、どうなっているのか歌舞伎のカツラのように編んでいる。3回ほど声かけしてみるも全く起きない。階段の途中で左肘をついて見事なバランスだが、気持ちのよさそうな表情だ。起こすのも忍びなく、肘下にホッカイロを挟んで、その場を立ち去った。その方の周りには荷物は何も置いていない。どこか別の場所に本拠地があるのだろうか?歩き疲れて熟睡したのか?酔って寝ているのか?前の方と同様にその姿からは路上生活の長さがみてとれた。その後、21:00近くなり、冷泉公園の医療支援に合流した。

冷泉公園で行っているボランティアは、NPO福岡おにぎりの会の炊き出しとホームレス医療支援のボランティアの約20人。

ホームレスの方は毎回参加されるおなじみの方が多いが、新顔もチラホラ。中には20代・30代の方もいる。2ヶ月ぶりにみる方もいて声かけをして近況を確認した。変わりなく元気なようだ。ボランティアの学生らとも一通り話しをし、22:00頃終了した。

途中、学生の一人は笑いながら言った「天神でこうやってホームレス探している私たちって変なのかな?」。なぜ彼女達はホームレスに声かけしてみようという考えに至ったのか。学生らは「ボランティア」には積極的だ。目の前に困った人がいて何とかしたいという気持ち。それは純粋で率直なものなのだろう。また、ホームレスはわかりやすい形で困っている人なのだろう。しかし、何ができるかもっともっと想像し考えて欲しい。

彼女たちには何を感じ、学ぶのか。今後も率直に聞いていこうと思う。

今日声かけした方々がこれまで生きてきた人生。そこには出生時の家庭環境、失業や家族・対人関係破綻、病気や差別・偏見など歴史があるかもしれない。貧困を生み出す社会構造があるかもしれない。人ひとりができる援助に限界があるが、声をかける事で、その方が何かを感じ変化のきっかけとなるかもしれない。多くを学び知ることで、声をかけるその一言に、人を変える「力」が宿るかもしれない。対話の幅を広げるためにも、MSWとして私は今後も参加する。

千鳥橋病院医療社会科(医療相談室) MSW 松浦