外来の方はこちら 千代診療所 092-651-0726
千鳥橋病院 092-641-2761

第20回 国際HPH
(Health Promoting Hosptitalss)
参加者の報告

第20回HPH国際カンファレンス台北 参加報告

医局 舟越 光彦

1、はじめに

今回は、アジアでの初めての開催であり、千鳥橋病院からは6人の参加者を組織し、演題発表も2題準備し参加した。主な目的は(1)総会に参加し、HPHネットワークの課題と今後の目標を理解すること、(2)アジアのHPH参加施設やネットワークとの交流を一層広げること、(3)日本でHPHネットワークを作るうえでの課題を考えること、(4)当院の発表などを通して、当院のヘルスプロモーション活動の経験を海外に紹介することを目的に参加した。

2、参加の概要

4/10(火)福岡空港 
4/11(水)9:00から16:30:総会/18時から:HPHカンファレンス
4/12(木)HPHカンファレンス、Gala diner(懇親会)
4/13(金)HPHカンファレンス
4/14(土)Landseed病院と地域でのヘルスプロモーション活動の見学ツアー/帰国

今回の日程で特徴的なのは、総会への参加とLandseed病院の見学である。総会は、役員とネットワークのコーディネーター(代表)とタスクフォース代表で構成され、HPHの議事を決定する最高決定機関である。慣例として、国・地域でネットワークを作ることができる条件を持つ国・地域に対しては、代表的な施設のコーディネーターがオブザーバーとして参加することになっているらしい。日本も4施設以上となっており、私が総会への参加の招待がされ参加することになった。

3、総会 GA meeting

参加者は30名程度で、役員(トネソンさん、チョウさんなど)、タスクフォース代表とネットワーク代表だった。
議題は、年次報告、決算報告、役員選挙、タスクフォース活動報告、カンファレンスの収支報告、予算と次期開催地の決定、タスクフォースの活動報告、ワークショップ(2011年から2013年の活動計画について3グループに分かれて)だった。867施設(2012年3月)。
年次報告として、3カ年計画であるHPH global strategy2011-2013を実践するための年次計画Action Plan2011-2012の到達が報告された。計画は、課題ごとにアウトカムを決めPDCAサイクルで実践されていた。課題の到達が可視化され分かりやすく、洗練された運営がなされていた。
決算報告に関しては、2011年の予算で20万ユーロ(2千万円)と報告があったが思いのほか少額だった。最近の欧州での経済危機が運営に大きく影響しているらしく、会費の滞納や脱退も少なくないようだ。このため、2015年からは現行の250ユーロから300ユーロへ年会費を増額することに決定したとのことだった。2012年、2013年の予算も提起されていたが、加盟施設を1000施設まで拡大することを前提にした予算だった。これに対して、収入の増加を見込まない実現可能な予算とするべきとの意見も出されていた。最終的には、new memberの多いアジアを中心とした新興国での加盟施設拡大、一方ではold memberの多い欧州では効果的で魅力的なヘルスプロモーションのツール開発などを通じて新規施設、ネットワークの拡大を図ることで意見がまとまった。
タスクフォースとワーキンググループの活動では、新設の提案があり、「身体活動に関するタスクフォース」を「高齢者に優しいヘルスケアのワーキンググループ」の2つが提案され設立が確認された。ともに、各々の分野でHPHの理念に基づくヘルスプロモーション活動の枠組みを、各々のテーマに関して評価ツールを作成することが主な目的となる。ツールを提案することで、病院のマネジメントや患者評価、介入方法等の国際的な標準化を図り、そして、ヘルスプロモーション活動の水準を向上させようと意図されている。こうしたチームには、ネットワークのコーディネーターが希望するチームに参加することになっている。今後、こうしたHPHのツール作成に日本からも関わることができると面白い展開ができそうに思う。他には、現在進行中のタスクフォース(「子どもと青年」、「移民と困難な人たちに優しい」、「メンタルヘルス」、「アルコール」、「環境に優しい」、「喫煙」)から、ツールの作成状況等が報告された。「移民と困難な人たちに優しいタスクフォース」からは、「公正な医療の実践」を評価するためのツールの案が提案され、非常に興味深かった。
今後の総会に関しては、2013年はスウェーデンのヨーテボリ(スウェーデン語ではゴーセンバーグ)は決定していたが、2014年の開催地について議論された。結論として、スペインのバルセロナとなった。なお、今後は、欧州2回、アジア1回でローテーションされるかもしれない。そうなると、2015年は、シンガポールとなる可能性が高かった。

4、国際カンファレンス

1日目
世界医師会長の講演に感銘を受けた。世界医師会は、2011年の総会で医師がSDH(健康の社会的決定要因)の解決に取り組み、健康の不平等の解消に貢献することを求めた声明をだしている。会長の講演も同様の趣旨のものだった。その趣旨は、病気の原因には生活習慣などの目に見えやすい原因(proximate causes近位の原因)とそのさらに原因である健康の社会決定要因(causes of the causes 原因の原因)があること。健康の不平等が拡大し重要な健康問題となっている現在、医師は治療だけに限らず健康の社会決定要因に取り組まなければなければならないと訴えるものだった。国連、WHOがイニシアをとりながら、健康の社会決定要因に対する世界的な取り組みはムーブメントとなって広がっている。世界医師会の取り組みもこうした国際機関との協調した取り組みとして進められている。ただし、医師会の世界のトップの話は、改めて命の平等が保証される公正な社会の実現に社会環境の改善も不可欠であることを再確認させてくれた。この点、日本は医学会では健康と社会との関係についての関心は薄く世界の常識とは隔たりも大きく、いわばガラパゴス状態だ。当院も含めた粘り強い唱道(困難事例の報告、臨床研究によるエビデンスの報告など)が必要だと思う。
一方、カンファレンスは3回目になるが、一貫してSDHに関する基調講演があり、HPHがSDHに強い関心を持っていることが感じられた。HPHの実践は、ヘルスプロモーションの理念を、リサーチをしてエビデンスを示すことで共感を広げ、ツールを開発してエビデンスに基づいた実践を世界規模で展開しようとしている。禁煙、飲酒、メンタル、労働衛生などの課題は、こうした作業手順で実践が進んでいる。しかし、SDHに関しては、まだまだ、HPHのネットワークの中でのエビデンスや実践の普及は十分とは言えない。先述の現在開発中の「公正な医療の実践」を評価するためのツール開発などなどを積み重ねて発展することが必要と感じた。

2日目
「Relationship between Job Stress and Job Satisfaction among Medical Professionals」のタイトルでポスター発表を行った。ストレスでうつ状態が増加することは多くの研究報告があるが、ストレスと職務満足感の関連を医療職で検討した報告は少ない。今回の発表は、ストレスと職務満足感の関連を検討し、職務ストレスが少ないほど、職務満足感が高まることを示した。従って、ストレス対策は抑うつなどのメンタルヘルス対策あるとともに、職務満足感を高める効果もあることを報告した。会場では、台湾の看護師さんから質問を受け、台湾でも看護師のメンタルヘルスが問題であることと、同様の研究を実施していきたいというものだった。論文になったら知らせて欲しいということだったので、そうするように努力したいと思う。
ワークショップ「公正な医療の実践を評価するための国際基準の作成」に参加した。会場の参加者は、40名程度だった。先述の「移民と困難な人たちに優しいタスクフォース」が開発中の「公正な医療の実践を評価するための国際基準」ツールの素案について、タスクフォースの責任者のChiarenzaさん(イタリア)から紹介を受けた。国際基準ツールは5つの基準、「1、公正な医療を実現するための病院の方針、2、公正な医療アクセスの実現、3、公正な医療の質の提供、4、公正な医療の実現のための患者や住民の参加の促進、5、公正な医療実現のための社会への発信」である。ツールの紹介の後に、3つのグループに分かれ、私は基準1についての討論グループに参加した。移民やマイノリティを対象に病院やNGOでヘルスプロモーション活動や研究をしている参加者で、議論もとても面白い内容だった。今後、ツールの開発にも参加できるようにしたいと感じた。

3日目
口演セッションの「HPHのために必要な組織力を作る」に参加した。台湾のチョウ先生が、台湾の加盟病院がネットワークを作り発展した経験を報告。台湾は現在、世界で一番HPHの活動が盛んな地域だが、そこに至った組織的な経験の一端を知ることができた。台湾では、加盟前にHPHのセルフ・アセスメントを行い、ネットワーク事務局の訪問審査を受け加盟が承認される。アセスメントで不十分な項目は、訪問時に指摘され改善をすすめていくことになるが、ネットワークで開催されるトレーニングコースに参加したりや加盟病院の良好事例を学んでHPHとしてのパフォーマンスを向上させている。その結果、5年間経過してアセスメントの点数は全ての項目で有意に上昇し、ネットワークの機能が有効に働いていることが報告された。台湾の場合は、政府の関与が強く日本とは事情が異なるが、今後の日本での展開に非常に参考になる報告だった。
最後の企画では、HPHの国際ネットワークが開始されて20年を振り返り、HPHの将来を語るものだった。特に印象に残ったのは、CEOのトネソンさんの話だった。HPHの将来には2つのシナリオがあること。1つは、ヘルスプロモーションが普及し、HPHの活動が不要になる望ましい将来が来ること。もう一つは、HPHのネットワークを広げる努力を続け、病院に関わる全ての人たちの健康の増進のために貢献をしていくこと。当然、答えは後者で、HPHのネットワークを広げる鍵は、あらゆる組織、人たちとのコラボレーションを一層広げることというものでした。ワールドクラスの知性に深く感銘を受けた。
また、台湾のチョウ先生は、アジアのHPHのリーダーだが、ヘルスプロモーションを提供する病院(Health promotion in Hospital)とHPHとは別物だという話が印象深かった。組織の構造や文化をヘルスプロモーションを実践するのに相応しいものに変化した病院と保健予防活動を実践する普通の病院では、実践の効果も異なるということなのかと思った。民医連は昔から保健予防活動を実践しており、いまさら加入の意義を感じないという意見もあるが、これに対する答えがチョウ先生の話にあるのだろうと感じた。

5、Landseed病院と地域でのヘルスプロモーション活動の見学

Landseed病院は、HPHの加盟の700床規模の病院で台湾のネットワークから表彰を受けているヘルスプロモーション活動の盛んな病院である。地域での健診活動は、行政と協力し毎週1000名の公的な無料住民健診を実施しており、その活動を見学させていただいた。健診の会場は中学校で、スタッフもボランティアで参加し活気のある雰囲気の健診だった。内容も、診察、採血、各種癌検診、うつ病スクリーニング、栄養指導、眼科診察、子供対象の健康教室など盛りだくさんの内容だった。健診だけでなく、健康教育の場としても運営されているのに感心した。昭和のころの民医連なら同じようなことができただろうが、今の時代では、ここまで職員を動員して毎週院外の健診をすることはできないだろうと感じた。政府からの政策誘導があるにしても、ヘルスプロモーションに対する強い情熱や使命感を感じた。病院見学では、豪華な病室も案内され当院との違いも感じた。一方で、院内の施設を利用したウォーキングマップの啓示は参考になった。
昼食をしながらの会話で、台湾のHPHが盛んなのは政府の医療費削減を目的とした政策によるものであること、HPHの加入が日本の医療機能評価のような第三者評価の審査項目となっておりHPH加入でポイントが上がるように政策誘導されていることを聞くことができた。官製のトップダウン方式で広がっているわけだが、見学してみて病院のスタッフがヘルスプロモーション活動に情熱を持って取り組んでいることも実感できた。今後も、ぜひ交流を続けていきたいと感じた。

6、感想と今後の課題

参加するにあたって、当初掲げた目標は実現できたと思う。総会では、HPHネットワークの課題と今後の目標を知ることができた。アジアのHPH参加施設やネットワークとの交流も、台湾、韓国の施設を中心に知り合いをさらに広げることができた。日本でHPHネットワーク作りに関しては、民医連以外の施設も加えて、多様な施設でネットワークを作らなければならないと再確認できた。そのためにも、現在翻訳中のHPHパンフレットを早急に出版しようと思う。当院のヘルスプロモーション活動の経験も3回続けて行ってきたので、認知度も高まってきたように思う。何よりも、全日本から多数の施設のスタッフがHPHの活動に直に触れ、その魅力を体験してもらったことが国内でHPHの活動を広げるには大きな力になることだと思う。
今年度中には、日本でのネットワーク作りを展望し、当院の活動を質を高め、民医連以外の施設の参加を実現し、必要なHPHの文書の翻訳作業を進めていきたいと思う。
最後になりますが、出張中に病棟の対応などをしていただいた医局員の皆さんを始め全職員の皆さんに感謝いたします。

第20回HPH国際カンファレンス台北 参加報告

2012年4月17日 医局 山本 一視

〇 サマースクール報告

4月9日~10日のHPHサマースクールおよび4月11日~13日の国際カンファレンス、そして14日のsite-visitコースに参加した。サマースクールについて以下報告する。
最初の2日間のサマースクールはHPHのとりくみを深く理解し推進者を養成すべく行われたもので、終了時にはHPH本部からattendantとしてのcertificationが与えられた。内容は以下の3つのテーマでレクチャーとワークショップ(以下WS)が繰り返されるというものであった。グループは近くに座っている人たちで形成するということで当院からの参加者の3人(私、園田、花山)と悲運にも私たちの後ろに座っていたIndonesiaの2人(Social Healthの専門職の女性ティカさん(22歳)さんと、National instituteの機関に所属していて大学では非常勤のresearcherをしている女性タティさん(28歳))によるグループが形成された。もちろん彼女たちはnativeに近いほど英語が堪能で、またお国を代表してくるだけあって頭脳明晰、ディスカッションの進め方もまとめ方も非常に優れた娘さんたちであった。この日は一日中、彼女たちの「寛容と優しさ」と「能力」と「明るさ、positiveさ」に助けられ続けることになる。最初の全体での自己紹介でみなさんがとても流暢に話されるのでもう帰りたいと思ったが、そのままタイムテーブル通りに進行する。初日午前中の(1)「HPHのimplementationをどうすすめていくのか」ではレクチャーの後でQ1;自分の地域や病院でHP(Health Promotion)のために必要なことは何か、Q2;ではそのためにまず何を実践しなければならないか、という2回のWSを行った。当院で経験するアルコール症、貧困、社会的孤立の状況とインドネシアでの高い喫煙率(たばこ産業の圧力、医師の高率な喫煙なども)が交流されながらなんとか発表もクリア。午後からは(2)「(Health promotionのexpertを養成するためのMasterコースの紹介とあわせて)診療の現場で(対患者の場面で)患者の行動変容をどうすすめていくのか」。Q1;どのようなテーマがHPに関するexpert側の学習に必要か、というWSのあと、患者の行動変容についてrole playが行われた。こちら3人の会話能力からみて、ティカさんに医師をやってもらい私が言葉のよくわからない外国人労働者(名案!)を演じるというのが最もnaturalだと思ったが、結局私が医師役、ティカさんが2回目の股関節の手術を控えたアルコール常用女性を演じた。もともとこのセッションでは術前の4か月断酒が膝と股関節の術後合併症を半減させるというEvidence(Lancet)や術前の禁煙が腹部手術の術後合併症をこれも大きく減らすというEvidence()に基づいて(そういう習慣の変更で周術期の成績が著しくよくなるというdataがいろいろすでにMajorな雑誌でpublishされていることを知らなかったのでそのこと自体が新鮮な驚きであった)行われ、またそのHPを進めていくための手段としてⅰ)Clinical balance ⅱ)stage of patient ⅲ)Motivational interviewの3つのステップとそれぞれに使われるツールが提供された。ここで使われたテキストが現時点でのこの分野での到達ということであったので、今後日本語に翻訳しながらみんなで学習していければと思った。Role-play自体はティカさんが女優顔負け(たぶん泉ピン子の若いときよりもうまい)の熱演で盛り上がり、朝から英語を使ってきたことで頭痛と思考停滞がひどくなった私が医師役にもかかわらず患者さんとのやり取りの途中で休憩動議を提出するという暴挙にでて彼女たちの爆笑を買って非常に楽しく終えることができ、それぞれの役回りからのコメント発表もそれなりに終了した。へとへとになった私たち3人にもやっぱりほかの全然ストレスのない参加者たちと平等に憎らしい朝は訪れ2日目は(3)「自分の地域で、都市で、国でHPHのNetworkを形成していくにはどうすればいいのか」というテーマ。今回の大会長を務めた台湾のDr. Shou T Chiou(台湾に77病院のHPHを組織し台湾の国民健康局長に就任した女性医師)が素敵な笑顔とバイタリティと情熱があふれるレクチャーで私たちを「熱く」していく。レクチャー後にフロアからの質問が相次いで全体でのディスカッションが長くなり予定されていたWSは中止。喜んだのもつかの間、国ごとにこのレクチャーから何を学んで何を持ってかえるのか発表することになり、もはや他国の善意にすがる手段もなくなった私たちはHPHを国内で地域でmake-diffusionするために行動することを誓うのであった。こうして私たちのterribleな2日間は終了。苦しみながらも考えたことを私が話すのを優しい笑顔でうなずきながら”Thank you”と言ってくれるDirectorのHanne Tooneson先生が本当に素敵だった。
学んだのはHPHの方向性はどんな国でもどんな立場からも歓迎される、そういうニーズが高まっている時代なのだということ、そしてそのimplementationにはそういう意識を持って「行動する人」が必要だということ、Health promotionは外来でも病棟でも何科でも、地域でも都市でも国でもどんなレベル分野でもそれを進めることがそこにいる人たちの幸せにつながるのだということ。世界には知的で良識ある素晴らしいリーダーがいて、また情熱と能力をもった若者がたくさんいるのだということ。そしてそこでのディスカッションや取り組みのhuman resourceになるには英語での会話(可能なら日常生活より少しだけ難しい会話までも)を勉強しなければならないのだということを感じた。

〇 国際カンファレンスに参加して

2日間のサマースクールに引き続き4月12~14日の国際カンファレンスに参加した。
2年前の健康格差にタックルする、1年前のヘルスプロモーションの連携、というテーマからの連続性をどうとらえればいいのかわからなかったが、全体的には健康格差という問題はジェンダーや移民の問題として取り上げられていたけれども、どちらかというとaging populationという問題にどうとりくむのか、HPHを個々の病院レベル→regional→nationalと実践していくにはどうするのか、という問題意識が前面にでていたように感じた。これは、主催の台湾がこれまですすめてきたこと、いま直面して実践していることが反映されているように思えた。また初めて欧州を離れてアジアで開催されたという運動の広がりもあって、Health promotion(HP)を世界で進めていくにあたって、HPHネットワークが既存のさまざまな学術団体、保健健康推進団体や環境保護関係団体と連携を深めていこうという議論がされ、plenary講演も幅広い分野からゲストを招いて最新の状況、課題が報告されていた。『コラボレーション』という言葉が、HPHの指導者たちから繰りかえし語られた。
そういう中でもっとも印象深かったのは世界医師連盟の会長GOMES DO AMARAL氏の講演で、Social Determinant of Health(SDH)を真正面からとりあげ、「貧困や環境や労働など社会の問題に取り組まなければそこの人たちの健康はえられない、そのためには医師も病院も何をするのかを考え行動しなければならない」と世界の実例を出しながら熱く語っていた。まるで民医連の講演を聞いているようで、正直驚いてしまった。しかし世界医師連盟はすでにSDHの議論と問題提起を数年前に行っているのであった。医療や健康というものたちと経済、労働や環境や文化といった人間社会全体との切り離すことができない本質的な構造をあらためて意識することができた。一方でUSAのAHAの幹部LARBRESH Ken氏がUSAでの心臓死を100万人減らすキャンペーン(Million Hearts Campaign)について講演し、その提案の仕方のスマートさに感心し、一次予防に政府機関と学会を挙げてとりくむという方針が良いなと思ったが、実現への方略として「(禁煙も含めた)ガイドラインをしっかり作ること」と「たばこ税を上げること」の二つで解決できるというような発想が、なんともハリウッド映画的で単純だなとおもった。HPHのDirectorのDr. TǾNNESONがその発言を受けて「禁煙にせよ運動不足解消にせよ、行動変容を起こすこと、ヘルスプロモーションが、個人個人の状況に応じて進められることが重要(ガイドラインのその先が大切なのよ)」と発言をしていたが、私の大好きな「紅の豚」でジーナが言い寄ってくるアメリカ人のカーティスに「ここではあなたの国より少し複雑なのよ」といなすシーンを思い出してしまった。
口演とポスターでは開催国の台湾での実践報告が大変多かったが、昨年から台湾が国レベルで取り組んでいるプロジェクトの「age-friendly hospital」という取り組みが、当院が直面している問題でもあり、今後関心を持っていきたいと思った。そのほかにもイタリアでの国を挙げての「No Pain DAY」のとりくみや、全体講演でだされたWHOのbaby-friendly hospital(「赤ちゃんにやさしい病院」日本でもとりくまれています)など興味深いものがたくさんあった。
最終日のHPHのリーダーたちによるパネルディスカッションが圧巻で、これまでの20年を振り返りつつこれからのHPHの展開を語り合うのだが、短い時間できっちりエッセンスを共有していくその力量に感服した。個人にも病院にも地域にも都市にも国にもいたるところでHPが展開される未来をめざそうというメッセージがとても印象的だった。世界のリーダーたちの資質と人間性、知性を感じて感動した。
いろんな分野の第一人者の話が聞けて、世界中が直面しているさまざまな問題の今を知ることができる、そしてそれがヘルスプロモーションへ収斂されていくという経験がわずか3日で(WSもおすすめです)経験できるこのカンファレンスは本当に刺激的であり、ぜひ毎年いろんな医師に参加してもらいたいと思った。
今回私を送り出していただいた医局のみなさん、病院職員のみなさんに感謝します。

〇 4/14病院見学ツアーに参加して

最終日は朝から台湾HPHネットワークのモデル病院であるLandseed Hospitalを見学。700ベッドだが看護師不足で300ベッド。あたたかいもてなし、医療活動紹介からはじまり、印象としては当院近くのきれいなA病院に近いものを感じたが、地域に出ていくことも病院の基本骨格という位置づけがなされており、地域への健診、ネパールへの年2回の医療支援を継続しているという紹介であった。実際にそのあと中学校の施設を借りて毎週実施されている住民健診を見学。1000人ぐらいの住民参加で、問診、認知症スクリーニング、口腔癌のスクリーニング(bete nutsというものをかむ習慣があり高率発症とのこと)、PAP‐smear、胸写、視力測定+眼科医による診察眼底観察、骨密度測定、血液検査、マンモグラフィ、栄養相談、薬剤師相談とたくさんの内容が無料で受けられるシステムであった。職員が休日にもかかわらずたくさん参加していて、しかもいきいきしたみんなの表情が気持ちよかった。午後からは、医療ツーリズムにも対応していると思われる1日3万円の室料の一流ホテル並みのフロアから差額なしの4人部屋まで見学。院内に芸術ギャラリーがあったり、玄関近くのホールには小学生や中学生が書いた禁煙ポスターのコンクールが展示されていて、居心地をよくする工夫と地域を啓蒙するとりくみが印象に残った。
院長によれば診療報酬はこの10年ほとんど据え置きでしかし人口の高齢化への対応など病院に必要な投資は増えていくばかり、大変なのだということであった。
丁寧な歓迎に感動し、また高度の医療から住民健診、開発途上国への支援まで手広く実践するバイタリティに感心した。当院の今後のHPHとしての取り組みにもいろいろ刺激になる見学ツアーとなった。

HPH・サマースクール 参加報告

3年目研修医 花山 愛

4/9~4/10 サマースクール、4/11~4/13 国際カンファレンス、4/14 病院見学 のスケジュールで参加させてもらいました。
英語が話せない私にとってサマースクールはとても辛い経験となりましたが、それ以上にこれまでの人生のうちで最も刺激的だったともいえるような2日間でした。
参加人数は全体で30名ほどで、20代~50代と年齢幅も大きく、職種も様々でした。どの方も、国を代表するほど優秀でバイタビリティに富む人ばかりで、英語力に乏しい私は議論に積極的に参加することはできませんでしたが、彼らの積極的な発言を聞いていると(悲しいことに彼らが何を話しているか理解することすら難しかったですが) 自分ももっと積極的になりたい、もっともっと!!と、やる気が満ちてきました。
ディスカッションで同じグループだったインドネシアの2人の女性はともに20代で、とても親切で可愛らしい子たちでしたが、ヘルスプロモーションに対する熱意はすごく、議論もすごくパワフルでした。日本ではHPHは千鳥橋病院のみという現状が続いていましたが、日本全体・世界全体の健康づくりを目指すためには、もっと周囲を巻き込んで取り組む必要があると感じました。今回は他の参加者から私が刺激を受けることばかりでしたが、いずれは英語力を鍛え直して再挑戦し、次は議論の輪に入りたいと思います。
国際カンファレンスのほうは、スライドも用意されている分、英語としては理解しやすく、分からない箇所もありましたが大筋は理解することができました。どの講演者の方も内容が分かりやすく明確なメッセージ性があったので、毎回聞く度に「そうだな」と影響を大きく受けましたが、それをどうのように吸収して自分の力に変えていけばいいのだろうと悩みもしました。「健康づくりには貧困や環境の問題に取り組む必要がある」と言われれば、当然そうだなとは思うのですが、じゃあ自分に何ができるのだと考えたときに明確な答えを持っていないことに気づきました。禁煙・禁酒・労働でのストレス軽減・無料健診など、実現できれば健康に良いのは当たり前なのだろうけど、それを周囲に当たり前のこととして広げていくのは難しいと思います。実際に一般外来に出ていると、これまで病院受診もしたことがない、食事も飲酒も喫煙も自由気ままにの患者さんに出会いますが、こういった方に「健康」を浸透させていくのは大変困難なことだと再認識しました。HPHの場は、健康に熱心な人たちの集まりなので議論も理解もスムーズに進みますが、これを全く関心の無い人たちに説明していくのは難しく、その点がいつも自分がぶつかっている問題だなと感じました。今回、国際カンファレンスに参加させてもらうという大変貴重な経験をさせてもらったので、これを自分のスキル・知識として持ち帰って、今後どうのように周囲に影響を与えていくかが重要だと感じています。まだ具体的に何をすべきかという答えは見えていませんが、日々の外来・病棟業務をしながら、出会う患者の一人にでも何かしらの行動変容のきっかけが与えられればと思います。

HPH国際カンファレンス(台北)に参加して

リハセンター 理学療法士 伊藤 毅充

今回HPH国際カンファレンスに参加させて頂いてポスター発表をおこなったのでここに報告します。
今回のテーマは”変貌する世界の岐路に立つヘルスケア:ヘルスケアの提供とヘルスプロモーション、ヘルスシステム設計に対する新たな要求”ということでこれまでのHPHの取り組みを振り返りながら今後どのような形でヘルスサービスを提供、供給してゆくか、どんなことが必要なのかとういうテーマで行われました。本会議、報告、分科会がありその中で印象に残ったものについて報告します。
本会議1の変化する世界で岐路に立つヘルスケアでは健康の決定因子に関して参加出来る形態は様々な可能性があること、医療従事者の役割として人々の治療にとどまらず不健康を引き起こす要因ともっと関わるべきであると唱えているのが印象的でした。人の不健康は社会、文化、環境、経済状況に強く影響されることが改めて分かりました。
本会議4ではHPHとその能力についての発表がありました。台湾では政府の支援政策もあり2006年に開始したネットワークが76機関まで拡大していること、その導入に伴って行動計画を継続しヘルスプロモーションの質を向上させているとの報告がありました。行政と共同でのプロジェクトも多くあるとのことで、これが民間主体の日本とは大きく異なっていることが感じられました。
今回はポスターにて千鳥橋病院のHPH職員チームの取り組み(ノーリフト)を発表しました。質問がいくつかあり、特にフィリィピンの看護師さん達はスライディングシートに興味を持ってました。重い患者を抱えるのがやはり大変で、ホイストなどは予算が無いので導入困難とのことでこの方法は良いと言っていました。写真など熱心にとられていました。
私が発表したセッションは看護師の健康に関しての報告、burn-outなど日本でも身近な問題についての報告、取り組みが多かったです。
今回のカンファレンスにおいて感じたのが、福岡医療団が地域に基づいて行ってきた医療活動そのものがHPHの目指すものと大きく変わらないということ。HPHのようにシステマチックに評価、基準を明確に出してデーター、エビデンスを出してゆくのももちろん大事だと思いますが、現場で起こっていることに向き合い、試行錯誤し培った経験を伝えて根を張っていく地道なことが変化を生む上で非常に大切だということが感じられました。
個人的なことですが、今回英語で国際カンファレンスで発表・質問できたことはとても貴重な経験になりました。文化も違えば、視点も違い、意見交換がとても楽しくありました。意見交換はある程度できたのですが、日本の社会についてもう少し説明できる知識、医療・福祉関連の英語語彙力はまだまだ不足していると実感しました。今後は数年後国際学会でポスターでなく口頭で発表できるように、日々の診療はもちろんのこと多角的な視点を持っていろんなことに挑戦したいと思いました。貴重な機会を与えて頂きありがとうございました。

第20回HPH国際カンファレンス参加報告

2012年4月 地域連携室 甲斐

□ 第20回HPH国際カンファレンス概要

日時:2012年4月11日~13日 カンファレンス
開催場所:台湾・台北
参加:舟越医師、山本医師、花山医師、園田医師、伊藤PT、甲斐
世界約43カ国、1,300名が参加

□ カンファレンスに参加して

今回、20回目を迎えるHPH国際カンファレンスは、初のアジア開催で、またヨーロッパ以外で開催される初めてのカンファレンスとして、世界各国でのネットワークの広がりを示すものとして注目されたカンファレンスとなりました。20回目という節目を迎え、当初HPHが目指したもの、そして今までの活動の到達点、今後の課題について、話合う事を目的とし、開催されました。
今回のテーマとして、(1)変化する世界の岐路に立つヘルスケア:ヘルスケアの提供とヘルスプロモーション、ヘルスシステム設計に対する新たな要求、(2)HPHに関する介入のエビデンス:すでに何がわかっていて、今後どんな研究が必要なのだろうか、(3)ヘルスサービスでの公衆衛生上の課題を強化する、(4)HPHがより一層貢献するためにどのような能力が必要だろうか、(5)ヘルスプロモーションの達成に向けたヘルスサービスの方向転換の20年と今後の展望、といった5つの主要なトピックスに焦点をあてたものでした。 最初の本会議では、「社会的健康の決定因子」といったテーマで世界医師会 会長(ブラジル:ホセ・ゴメス・ド・アマラル)からの報告があり、テーマ(1)の問題における自分(私)たちの役割は何なのかについて問題提起がありました。その中で、不健康になりうる要因について、もっと介入し取り組む必要があり、不健康になる要因として、人の誕生、成長、生活、仕事、年齢があり、その不健康になりうる要因は社会や文化、環境や経済状態に大きく影響することが言われ、まさにその部分に介入し人が健康であることが(健康をつくっていく)ことが、社会や様々なものを安定させることではないかと思いました。私たちが日常的に取り組んでいる何気ない健康づくりが世界の健康へとつながることを感じました。さらに、もっと科学的なデータを基に、社会的健康の決定因子(SDH)を明らかにしていく必要があると感じます。最後には、不健康の状態を修復する(あるいみ対処療法)にとどまらず、重要なのは不健康を引き起こす要因へ介入することが必要だと提起され、私たちの活動にどう反映させていくべきかと考えさせられました。
その他、台湾では、国が率先してHPHの推進を行っていることをあげられ、ネットワークが広がってきた経験が紹介されました。「ヘルスプロモーションをかなえるヘルスケアのための保健政策や保健制度能力はどのように創出し、維持できるか」といったテーマで報告され、台湾では、2006年にネットワークが設立され、現在76の組織加入まで広がっています。しかし、加入にあたっては、活動拠点の病院として、HPHの教育活動に参加することや、HPHの概念、方法、ツールへの理解を深める必要があるとされており、さらにWHOのHPH基準について自己査定を行い、自分の組織の弱点を確認した上で、改善するための行動計画を作成し、また3つ以上のヘルスプロモーションPJに取り組むか、実績を報告するかを行った上で、正式に加入を認めるかどうかの訪問調査の申請を行って承認されるとの報告を受け、日本でいう「病院機能評価」に匹敵する内容で、HPHへの加入が位置づけられていること感じました。加入後も、4年ごとの更新を受け、ヘルスプロモーションの質向上に取り組んでいるかの確認もあり、言い方は正しくないかもしれませんが、病院が健康について競争し、お互いを高め合っているという状況だと感じました。実際に審査項目で指摘のあった内容は、次の更新時に改善が行われているそうです。今では、台湾のHPH病院がヘルスプロモーション政策の実施および国民の健康向上を支援する上で、政府のかかせない強力なパートナーであることを証明しているとの報告で、現在の日本の社会保障制度の在り方と比較しても大きく異なり、私たちが参加し日本に帰ってHPHの活動と合わせ、他の施設、病院への呼び掛けなど、少しのところから社会へ訴えていくことの重要性を強く感じました。
全体会議の他、オーラルセッションや分科会でも、各国の取り組みが報告され、ディスカッションが行われました。また、2日目の夕食交流会では、デンマークやスイス、シンガポールの医師などとの交流も行い、国々での抱える医療問題や健康問題も様々である中で、ヘルスプロモーションの理念に集まり、自分の国でできることを考える有意義な時間となりました。
最後に、この3日間で各国の経験や、HPHに対する問題提起などを受け、日本ですぐに導入する難しさも感じましたが、やはり大事なことは、HPHに加盟している病院として、私たちの病院がまず何をやるべきかを明確にしていく事だと思います。HPHに関する病院としての方針と位置づけ、その一つが他の病院とのネットワークづくりだと思います。現在、日本で4つの病院が加盟していますが、民医連の病院のみであり、この枠を、地域でともに健康づくりを行う連携病院として、地域の民間病院、公的病院、大学病院などへと広げていくことが重要だと感じます。そのネットワークを広げることによって、国や社会へ働きかけ、制度へと結び付けていくことができるのだと感じました。残念ながら、日本では厚労省などが率先し、HPHを呼び掛け推進するとはなっていません。だからこそこのネットワークを知るものが、広げていく任務があると痛感しました。できることは限られているかもしれませんが、引き続きHPHの活動を実践することと知らせることに力を入れていきたいと思いました。今回、参加させて頂き、ありがとうございました。今後の活動に活かしたいと思います。

<病院見学に関する報告>
最終日に台湾の桃園にある病院を見学させて頂きました。病床数は、700床程度で、医師数は約100名。地域の中心的な役割を果たしているHPHの病院です。当日は、無料検診が行われており、同行させて頂きました。検診は、問診から身長、体重、眼、尿、血液、X線、マンモグラフィー、子宮、口腔癌、栄養指導等、多岐にわたる項目で検診が行われていました。毎週日曜日に開催され、年間その地域の5割の方が検診を受診するそうです。今回は、約1,000人の方が検診を受診し、ボランティア等100人規模で受入れを行ったとの事でした。会場は、近くの中学校が貸し出され、アットホームな感じを受けました。検診の項目の多さやすべてが無料(制度として)で行われていることに驚きました。